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大阪高等裁判所 平成9年(ラ)971号 決定 1997年12月16日

抗告人

藤井保雄

右代理人弁護士

吉田麓人

北岡秀晃

山﨑靖子

相手方

株式会社丸島アクアシステム

右代表者代表取締役

島岡司

右代理人弁護士

門間進

主文

一  本件即時抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一本件即時抗告の趣旨及び理由

抗告人の抗告状、平成九年一二月五日付及び同月一一日付各準備書面を引用する。

第二当裁判所の判断

一  原決定の引用

当裁判所も、原決定と同様、抗告人の本件仮処分申立ては理由がなく、却下すべきものと判断する。その理由は、後示二のとおり附加するほか、原決定理由説示のとおりであるから、これを引用する。

ただし、次のとおり補正する。

二五頁六行目(本誌本号<以下同じ>25頁1段20行目)の「場合に」を「場合にのみ」と改める。

同七行目(25頁1段23行目)の「審査の結果」を「審査の結果を踏まえて」と改める。

二六頁二行目(25頁2段2行目)の「始めとして」を「初めとして」と改める。

同末行目(25頁2段19行目)の「そうすると」を「以上の認定判断に、後示三の認定判断を総合すると」と改める。

二七頁三行目(25頁2段25行目)の「いえないから」を「いえず、また抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合であるともいえない。したがって」と改める。

二  抗告理由の検討

1(一)  抗告人の主張

抗告人には、次のとおり、継続雇用を期待する合理的理由があった。

(1) 抗告人は、本件雇止めまで合計一〇回の契約更新を受けた。勤務期間は通算五年である。

(2) 抗告人は相手方の正社員と同様の恒常的業務に従事することを予定して採用された。

そして、現実に正社員と同様の勤務をし、同様の賃金、一時金、昇給に関する待遇を受けた。

(3) 嘱託社員で六〇歳未満で雇止めをされた者はほとんどいない。

したがって、本件には、解雇に関する法理を類推適用すべきである。

(二)  検討

(1) 期間の定めのある雇用契約の期間満了による雇止めの効力の判断に当たっては、当該労働者の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、採用に際しての雇用契約の期間等についての使用者側の説明、契約更新時の新契約締結の形式的手続の有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇用の有無等を考える必要がある。これらに鑑み、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたか、あるいは、労働者が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきである(最判昭四九・七・二二民集二八巻五号九二七頁、最判昭六一・一二・四裁判集一四九号二〇九頁、最判平三・六・一八労働判例五九〇号一〇(ママ)頁参照)。

(2) これを本件についてみると、確かに、一件記録によれば、抗告人は、合計一〇回の契約更新により五年間にわたり継続して相手方に雇用され、その従事した業務内容も正社員と同様のものであったということができる。この期間、回数のみからみれば、なるほど抗告人において、相手方が継続雇用を行うことを期待すべき事情があったといえなくもない。

(3) しかし、一件記録によると、相手方は、従前定年退職者を対象として行ってきた嘱託社員制度の対象者に、比較的高年齢者で特に技能を有する者を例外的に加えてきた経緯が認められる。すなわち、相手方では、比較的高年齢者の就職希望者に関し、その技能に着目して、期間、賃金等の雇用条件をその都度明示して、就職希望者がこれに合意する場合に限り、雇用契約の締結ないしその更新契約を締結してきたものである(なお、抗告人は、その賃金等の労働条件が正社員と同様に扱われていた旨主張する。しかし、抗告人の賃金等は、雇用契約ないし更新契約締結の都度、相手方との間で合意されたものであり、その際に正社員の労働条件が参考されたことがあるとしても、そのことをもって、抗告人の労働条件が正社員と同様に扱われていたとはいえない)。

その上、相手方の担当者が、抗告人を採用するに際し、抗告人に対し、長期継続雇用をするとか、正社員として採用することを期待させるような言動をしたことを認めるに足りる疎明がない。

また、前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、相手方においては、嘱託社員の雇用契約更新の可否を、その都度実質的に審査し、これを可とする判断をした場合にのみ、その更新を行っており、抗告人についても、本件雇止めに至るまで、右のような実質的な審査の結果を踏まえて雇用契約の更新が行われてきたことが認められる。

(4) さらに、前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、抗告人は、平成八年九月二一日には、既に相手方の担当者から、同年一〇月一四日から平成九年四月一三日までを雇用期間とする次回契約をもって雇用を終了する旨の告知を受けていたものである。

その上、右説示のとおり、抗告人の勤務態度には、問題がなかったとはいえない。それのみならず、一件記録によると、相手方の担当者は、抗告人に対し、加工ミス等につき厳重な注意をしていたが、抗告人の勤務状況の改善がされなかったことが認められる。

(5) なお、抗告人は、嘱託社員で六〇歳未満で雇止めをされた者はほとんどいない旨主張する。

しかし、そもそも嘱託社員は、相手方において、定年退職者の中から勤務成績、技能等の優秀な者を再雇用するために発足した制度である。

そして、相手方は、その後、同制度の適用範囲を、定年退職者以外の者で、相手方がその技能をとくに必要とする場合にも拡大した。このため、相手方は、定年退職者以外の嘱託社員の採用を、とくに右のような技能者を必要とする場合に限定している。相手方は、その後の更新に際しても、その都度その必要性を吟味して、更新契約をしてきた。そうであるから、仮に嘱託社員で六〇歳未満で雇止めされた者がほとんどいなかったとしても、そのことが、直ちに、本件雇用契約が、期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態であったとか、あるいは、抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性があったことに結びつくものではない。

(6) そもそも、民法は、期間の定めのある雇用契約を適法と認めている。そして、これを修正する特別法はない(労働基準法一四条は、期間の上限を定めるにすぎない)。そうであるから、当事者が、期間の定めのある労働契約の締結ないし更新をする明確な意図のもとで、その合意をしている場合には、その意思に即した効果が認められる。

(7) 前示(3)ないし(6)の認定判断によれば、前示(2)の事情があることを斟酌しても、本件に関し、期間の定めのある雇用契約があたかも期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態で存在していたとか、抗告人が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合に当たるものと認めることができない。

2(一)  抗告人の主張

相手方は本件契約更新の都度、その要否を実質的に判断してきたとはいえない。たとえば、本件契約更新時には、所属長との形式的な面接があったにすぎない。

(二)  検討

前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、相手方は、本件雇用契約更新の都度、その要否を実質的に判断してきたと認められる。

また、右説示のとおり、所属長との契約更新時における面接が形式的なものにすぎなかったとはいえない。

したがって、抗告人の主張は理由がない。

3(一)  抗告人の主張

抗告人は、所属長から加工ミスなどの勤務状況上の問題点につき、注意を受けていた事実はない。

また、抗告人の勤務態度に問題はなかった。

(二)  検討

前示補正して引用した原決定「事実及び理由」第三の説示のとおり、抗告人が所属長から加工ミスなどの勤務状況上の問題点につき、厳重な注意を受けていたことが認められる。また、右説示のとおり、抗告人の勤務態度に問題がなかったとはいえない。

したがって、抗告人の主張は理由がない。

第三結論

以上のとおり、抗告人の被保全権利の疎明がないから、原決定は相当であって、本件即時抗告は理由がない。よって、これを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 裁判官 杉江佳治)

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